最高裁判所大法廷 昭和25年(あ)797号 判決 1952年6月18日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人加藤謹治の上告趣意について。
憲法三七条二項の規定は、刑事被告人に対し、受訴裁判所の訴訟手続において、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を保障した規定であって、捜査手続における保障規定ではないと解するのが相当である。そして、刑訴二二八条の規定は、前二条の規定とともに同一九七条一項に基き規定された検察官の強制捜査処分請求に関する法律規定であって、受訴裁判所の訴訟手続に関する規定ではなくて、その供述調書はそれ自体では証拠能力を持つものではない。されば、刑訴法が同二二八条二項において、「裁判官は、捜査に支障を生ずる虞がないと認めるときは、被告人、被疑者又は弁護人を前項の尋問に立ち会わせることができる。」と規定して、同条の証人尋問に被告人、被疑者又は弁護人の立会を任意にしたからといって、前記憲法の条項に反するものではない。刑訴法は、受訴裁判所の訴訟手続に関する規定として右二二八条等の規定にかかわらず更に刑訴三二〇条の規定を設け前記憲法の条項に基く刑事被告人の権利を充分に尊重しているのである。そして、本件第一審の訴訟手続においては、被告人及び弁護人は前記刑訴二二八条に基く尋問調書を証拠とすることに同意したものであること記録上明白であるから、刑事被告人の前記憲法上の権利を尊重した右刑訴三二〇条所定の同三二六条に規定する場合であるというべく、従って、第一審の採証手続に何等の違憲違法をも認めることができない。それ故、所論は、全くその理由がない。
よって裁判官全員一致の意見を以って刑訴四〇八条により主文の如く判決する。
(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)